By   2016年1月25日

Ⅰ.アルファ線用霧箱(入門篇)

▓ 4.霧箱でみるアルファ線の一生

  アルファ線(α線)の莫大なエネルギー

軽い風船や飛行船に使われているガスはヘリウムガスです。
そのヘリウムの原子核が、光速の約20分の1(約1千万m/s)という猛スピードで運動しているのが、アルファ線の正体です。こ のアルファ線の運動エネルギーは、なんと、通常のヘリウム原子の運動エネルギーの約1億倍にもなります。

そういう桁外れの運動エネンルギーをもったアルファ線ですが、体の外部からやってきても皮膚で体内への侵入は阻止されます。しかし、アルファ線を放出する元素に危険性がないというわけではありません。

外 部からのアルファ線の衝突には危険性はありませんが、アルファ線源が鼻や喉などの粘膜に付着したり、体内に摂取してしまうと、その桁外れに大きいアルファ 線の エネルギーが細胞の組織を至近距離から破壊するため大変危険です。これは福島原発事故の際、アルファ線を放出するプルトニウムという放射性元素が一部の地 域に よって検出され、マスコミでもおおきく注目された理由です。

  霧箱で見るアルファ線の一生

  空気中や霧箱の内部を進むときのアルファ線は、通り道の酸素や窒素の原子から電子をはぎとりながら空気中を6~7cm進み、光速の1/20の速さ(約1千 万[m/s])から、急減速します。そして近くの電子をとりこんで安定したヘリウム原子(風船に入っているヘリウムガス)に変わります。その通ってきたあ とには、電子と電子をはぎとられた膨大なイオンの山が残されます。

その膨大な数のイオンが核となり、アルコールの微粒子をつくり、それがまるでインフレーションを起こすように粒子は急速に成長します。そうして、見えるはずのない小さい原子核の飛跡が、人間の目で見える数ミリの雲の現象にまで急拡大するのです。

原 子は霧箱の中を運動しても飛跡を作りません。それより1万分の1も小さいアルファ線(ヘリウムの原子核)は、飛跡を作ります。その理由は、原子も運動して いますがスピードが遅く(1000m/sくらいの速度)、原子同士で衝突しても何も起きませんが、原子核は電荷がプラスで運動エネルギーの大きさが桁外れ に大きいため膨大な数のイオンを作るからです。わたしたちが霧箱に見る飛跡は、アルファ粒子の驚異的なエネルギーがつくりだした現象を見ているのです。

  マリー・キュリーはラジウムという放射性元素を前に、この物質の中には太陽が潜んでいるという趣旨のことをべています。彼女はラジウムを不用意にポケット にいれたままにしたところ、火傷をおっています。放射線の桁外れのエネルギーの大きさから彼女はラジウムに潜む無限のエネルギーを予感したのかもしれませ ん。

 ▓ 5.アルファ線の枝毛?の飛跡を見つけてみよう。

α線の飛跡の先端部で 空気中の原子核 (恐らく窒素か酸素の原子核) に衝突し進路を変えている❐ 皆さん、霧 箱でアルファ線を観察できたでしょうか。長い飛跡や短い飛跡、太い飛跡や細い飛跡、さまざまな飛跡が次々に現れては消え、消えてはまた現れてきます。アル ファ線の飛跡が発生してから消えるまで0.5秒くらいですが、実際のアルファ線の一生は、とんでもなく短く、約1億分の1秒で終わっています。(アルファ 線の発生から消滅までの時間を計算してみましょう。アルファ線の速さ:光の速さの20分の1,光の速さは3億m/s,その間に進んだ距離は、6㎝です。)

霧箱を使うと、わたしたちはアルファ線の一生の1億分の1秒を0.5秒まで拡大し、まるでスローモーションでもみるようにゆっくりと観察できるのです。とても不思議ですね。

  こうした効果から、飛跡をじっくり観察しているととんでもないことみつかります。あなたは、アルファ線の飛跡の中からに右の写真のような現象を見つけるこ とがありませんでしたか。写真をよく見てください。飛跡の先端に、枝毛のように分岐した小さな飛跡が ありますが、分かりますか?ほとんどの人は、このことに気がつきません。飛跡の初めの部分だけ見て、終端の部分まではみないためです。これはアルファ粒子 (アルファ線と同じ意味)が何かの粒子と衝突している現象です。飛跡が2つになっているのは、突き飛ばしたアルファ粒子に加えて突き飛ばされた粒子の飛跡 が新たにできたからです。

アルファ線の飛跡の枝毛は、アルファ線と空気中の原子核が衝突した痕跡なのです。

❐☆みなさん。、霧箱の飛跡をじっくり見て「枝毛の飛跡」探してみませんか。
霧箱の状態がよければ、多分、1分間に1,2ヶはさがせると思います。スマホで動画撮影して、ゆっくり飛跡を調査するのもOKです。枝毛の飛跡が見つかったら、いよいよ入門編を終わり、発展編に進み、一体この現象がなんなのかを解明していきましょう。

(参考文献)アルファ線霧箱を教育へ生かす研究は、日本において数多くなされています。本文を執筆するに当たって参考にした先行研究やその文献を紹介します。

ホームへ

0.霧箱で見る様々な放射線

1.霧箱の作り方――ドライアイス用

2.霧箱の作り方――液体窒素用

3.霧箱の飛跡は、何故見える

4.霧箱で見るアルファ線の一生
5.アルファ線の枝毛の飛跡を見つけよう

 NEXT(発展編へ)

Category:

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です