Category Archives: 重さと質量の混乱

なぜ起きる、「重量、重さ、質量」の混乱(その5)

By   2015年11月1日

→なぜ起きる、「重量、重さ、質量」の混乱(その5)

森 雄兒

■5.(新)計量法についての逆の説明

市民にとっての(新)計量法とは、すでに述べたように「重さ」の単位を使用禁止にし、「質量」概念で物品売買を行う一大転換を義務づける法律でした。当初からそういう視点で(新)計量法の実施を理解していた一人である三笠正人は、いくら「日本のように教育レベルの高い国でも――」と実施に否定的な見解を述べていました。その理由を「質量という概念は、人間の思考の産物としての抽象概念である。長さ、時間、温度、力といった量のように、直接の観測・実験では測れない。人間には物の重量、すなわち力は感じられるが、質量は感じられない。」(三笠正人「国際単位系への統一に反対」、信濃毎日新聞、1992.5.9)と述べています。
筆者の物理を教えた体験から推測すると、「質量」を理解している高校生は残念ながら全体の20%を超えることはまずないと思われます。質量教材の貧困という影響も否定できませんが、体感できる「重さ」とそうでない「質量」概念のとの間には大きな壁が存在していることがその原因だと思われます。

そうした現実の中でなお日本の国民全員が「質量」概念で商品売買を行うことを政治的に決断したのが、国民にとって(新)計量法の立法の意味でした。その実現を本当に目指すのであれば、まず(旧)計量法を明確にリセットし、その上に新しいシステムを構築するためのルールを国民に伝えていかなければならなりません。そのために、明確にしておかなければならない、必須の事柄が4つあります。

1.商品売買で「重さ」の単位が使用禁止となることの明確化。
(重さの単位としてのkg、kg重、kgwの単位の使用禁止。)
2.「kg」の記号は、「質量」の用語以外の組み合わせで使用しないこと。
(「重さ」と「質量」の混乱に終止符を打つために重さ:kgは使用禁止)
3.「質量」概念で商品売買が行われることの明確化。
4.「重さ」、「重量」の単位であるN(ニュートン)は、商品売買には使用できないことの明確化。
(SI単位では、商品売買のための「重さ」の単位がなくなることの確認。)

1、2は(旧)計量法を廃止するに伴い、過去をリセットするための内容で、3,4は(新)計量法によって国民が新しく受け入れなければならない内容です。
こうした内容の公知・啓蒙は、物理教育学会、物理学会、初等・中等課程の理科教育関連学会の協力を得て国を挙げて実行されなければ不可能です。しかし、経産省は、理科教育・物理教育の専門家集団にこうした協力を要請することはなく、SI単位等推進委員会の26名もの業界代表のなかに、教育関係者は文科省教科調査官1名を参加させるだけでした。そして国民に向かって必須の公知すべき1,3,4の内容については沈黙し、3については「重さや重量の単位:kg」を禁止するどころか逆に積極的に使いはじめ、「質量」と「重さ」を混乱させながら(新)計量法の全面実施に突入していきました。一体これで経産省は、国民に向かって(新)計量法のことをどう説明をするのだろうか。経産省の行動は誰しも理解に苦しむと思います。以下にその具体例を紹介してみましょう。

1992年11月14日付けの朝日新聞に掲載された、経産省の説明があります。
記者の質問に対して答えているのは通産省・機械情報産業局計量行政室長・津田博です。ただ、この説明は、「経産省用語」で語られているため、その事情に通じていなければ、説明文の内容を誤解し混乱してしまいます。そのため引用文のあとに、筆者が問題点とそのコメントを行いました。また引用文中の( )内の言葉は筆者が補足しました。

[朝日新聞記者]
(新計量法によって)使い慣れた単位を変えると、市民生活に混乱はありませんか。
[通産省・計量行政室長]
「体重に使う単位のキログラムが使えなくなり、9.8倍したニュートンになるという誤解があったようですが、体重は質量を表すので単位は変わりません(下線①)。また、エレベーターの重量表示も積載できる質量を表すのでキログラムのままです(下線②)。力を表すときに使う重力単位は、普通の生活にはあまり登場しませんので、一般の市民生活にはさほど影響はないと思います。改正に伴う対応は、産業界を中心にしたものになります(下線③)。」

まず、下線①、②、③にわけて経産省用語を解読し、そこにどういう問題点が隠れているのかを確認していきましょう。

(下線部①へのコメント)
「体重に使う単位のキログラムが使えなくなり、9.8倍したニュートンになるという誤解があったようですが、体重は質量を表すので単位は変わりません(下線①)。

(旧)計量法において重量、重さ、体重など(=力)に使っていた重力単位のkgやkg重が(新)計量法ではニュートンになるのは、誤解などではありません。物理の正しい常識です。ただ、この文章は物理学者が書いたのではなく、経産省の役人が書いた文章ですので、経産省・用語法で解読しなければなりません。すでに説明したように、経産省の役人が「重量や重さ、体重」と言う言葉を発すると、それは「質量」の意味に読み換えなければなりません。だから、「体重の単位」はニュートンではなく「質量の単位」のkgになるというしかけです。
(旧)計量法での「体重や重さの単位は、kg(力の単位)でした。」(新)計量法でも経産省・用語法を使うと、「体重や重さの単位はkg(質量の単位)です。」となり、( )内の意味は変わっても表面上は同じになります。
それにしても、なぜそういう煩雑な意味の付け換えまでして、小手先の表面上「変わらない」という主張に拘泥するのでしょうか。

(下線部②へのコメント)
エレベーターの重量表示も積載できる質量を表すのでキログラムのままです(下線②)。
この文章を読むと、もとから「重量」表示は「質量」の意味であったかのごとくに誤解させかねないので注意が必要です。「経産省・用語法」では、「重量=質量」(weight=mass)なので、それに合わせて「重量」の単位の記号も「N」(ニュートン)ではなく「kg」につけかえなければなりません。ちなみに、「重量=質量」という「経産省・用語法」は物理学の定義のみならず国際度量衡会議の声明でも、こういう定義は勿論存在しません。こうした特異な言葉の使い方をすることを明確に釈明することもなく、国民にむけた(新)計量法の説明の場面で平然と使用する行為はまったく信じがたいことです。
(下線部③へのコメント)
力を表すときに使う重力単位は、普通の生活にはあまり登場しませんので、一般の市民生活にはさほど影響はないと思います。改正に伴う対応は、産業界を中心にしたものになります(下線③)。」

(旧)計量法においては、「重力単位」(力や重さ)でものの売買が行われていました。その重力単位が普通の生活に登場しなくなったのは、(新)計量法のもとでは「重力単位」を商品売買で使えば処罰されるようになったからです。しかし、経産省はもともとあまり使わない重力単位だったから、市民生活にさほど影響はない、と言って原因と結果を転倒させてしまっています。
そして今回の変化は、いままで「重さ、重量」という直接体感できる物理量での商品売買を禁止して、高度な「質量」概念で商品売買を行うことを全国民が義務化されるという大変革であるにもかかわらず、そのことには全く触れずに、「改正に伴う対応は、産業界を中心にしたもの」と言ったり「一般市民にはさほど影響はない」と言ったりしています。

もうおわかりになったと思いますが、経産省は、国民に対して「質量」概念で商品売買の義務化されたことを知らせたくないようです。そういう仮説を持って、今まで述べてきた経産省・用語法を弄する彼らの奇行をたどり返してみると、すべてが整然としてつながってきます。

そうした視点を念頭におきながら、もう少しだけ彼らの文章につきあって分析していきましょう。
上記の①②③の文章はコメントした通り経産省用語で書かれているため様々な問題発言が見えなくなるように言語操作がほどこされています。そこで、①②③をすべて物理学の用語に直し普通に物理を学んだ人に問題点が見える文章になるようしてみたのが以下の文章です。なお、下線部は、経産省・用語法に関する重要な部分で(  )内は、筆者の補足です。

<(経産省においては)体重、重量、重さは質量の意味(とみなすことにしました。)ですから体重、重量、重さの単位の記号はニュートンではなくkgとなってしまいます。エレベーターの重量も単位はkgです。(新)計量法には、これからの商品売買はすべて(「質量」で行うと解釈できるように書かれていますが、経産省の特異な用語解釈では)「重さ」や「重量」で行うとも解釈できるように意味を付け替えたので(国民の皆様からは)これまでと((旧)計量法のときと)何も変わらないように見えるはずです。従って単位もkgのままで変化なくみえます。変化は、主に産業界だけなので(と思って)国民の皆様は、このことを気にとめないで下さい。>

こうした経産省の方針を確認するために表2を作成してみました。表2では「(旧)計量法から(新)計量法への移行」の法改正にともなって、どういう変化が国民に及ぶのかという内容を「物理学の用語」で説明した場合と「経産省・用語法」で説明した場合とを比較しています。この2つの説明の違いを比較すると、経産省・用語法の目的がよく分かってくると思います。

混乱表2高

ここでは、問題の核心的な部分を表を見ながら確認していきましょう。
○物理学の用語で商品売買に関して(旧)計量法から(新)計量法への変化を説明すると、「重さ、重量」から「質量」概念に変更になります。従って単位の記号も「kg、kg重、kgw等」から「kg」へ変化し、一大転換が起きています。(「kg」は、「重さと質量」の2重の意味があったのが、今度は「質量」専用の記号になります。)

○経産省・用語法では、(旧)計量法で「重さ、重量」の単位で商品売買していたものが(新)計量法においては新たに「質量」に変化したはずですが経産省・用語法を使いこれを「重さ、重量」に読み換えられます。そして単位はkgのままになります。従って用語は、「重さ、重量」から「重さ、重量」へ、単位の記号も「kg」から「kg」へとなり、意味の変化を無視すれば、まったく何も変わっていない、ように見えます(下線部①はこのことを指している)。経産省・用語法を駆使すると、歴史的一大変化である問題点が見事に手品のように見えなくなってしまいます。

こうして経産省・用語法を使い、「重さ」という言葉を質量の意味につけ替え、(新)計量法が成立しても国民には(旧)計量法のときと同じ(ように見える)、と説明します。こうして国民をまるごと誤解させる方向に誘導し、巨大な文化的負債を作りだし、現在においてなおこれを続けています。

このときから理科や物理を学ぶ子供達や成人の物理を学び直す受験生にとっての混乱が始まりました。理科や物理の学習途上の人たちは、科学の論理的一貫性を信じて思考していきます。ところが、経産省・用語法によってそれが裏切られ、多くの人が2重言語状態で混乱し、論理的一貫性のない単位の用語に当惑し、科学の論理に対して不信感を抱き始めます。誠心誠意努力した人には不信感と同時に深い傷ももたらします。経産省のこうした行為は、次世代の科学技術者を目指す人達だけでなく、これからの科学技術に理解を示そうとする多くの人々の意欲を潰していきますが、彼らにその自覚があるのか、とても気にかかります。

11月18日部分修正
・次回(その6・最終回)は、11月15日アップロードの予定です。

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なぜ起きる、「重量、重さ、質量」の混乱(その4)

By   2015年10月24日

なぜ起きる、「重量、重さ、質量」の混乱(その4)

                                 森雄兒

■4.「経産省・用語法」を作った委員会

「重さ、重量」の意味のつけ替えを可能にするためのベースを構築した委員会があります。経産省の「SI単位等普及推進委員会」です。そこで製作された「新計量法とSI化の進め方」という文書に経産省・用語法が誕生するための枠組が書かれています。

「SI単位等普及推進委員会」とは、(新)計量法を実施するために経産省内部に設けられた正式の委員会で主な構成者は次の通りです。
委員長:桑田浩志(トヨタ自動車設計管理部)、副委員長:永井聡(経産省工業技術院計量研究所主席研究官)、筆頭委員:佐藤義雄(文科省教科調査官)、以下26名の各産業界などの代表者が名を連ねている委員会です。

その委員会で発行している「新計量法とSI化の進め方」のファイルのQ&Aに、それに関する該当部分があるので以下に引用します。文中(   )内の文章は文意を誤解しないよう筆者が補足し、また下線部は要注意の箇所を示しています。なおこのファイルは、誰でも「新計量法とSI化の進め方」のファイル名でネットから入手できます。

「Q21.重量という言葉は、(旧計量法が廃止されたあと)今後とも使用することができるか。」
「A21. ―――(前略)―――――(新)計量法では、用語の使用を明確には規定していませんが、SI化を機会に単位記号、接頭語などと同様に、用語も正しく使用することをお奨めいたします。重量を質量の概念で使用する場合にはその単位に”kg”を、力の概念で使用する場合にはその単位に”N”を使用します

「用語の使用を明確には規定していません」と、かなり重大な事がこともなげに触れられています。つまり、「質量」のことは、「重量」と呼ぼうが「重さ」と呼ぼうがかまわない。しかし「kg」という単位の記号だけは明確に「kg」と書かなければならない、と言う意味のことが述べられています。(新)計量法を実施するさいの方針は「単位の記号」管理が主目的で、「単位の用語」の使用は明確に規定しない、と述べているのが瞠目すべき点です。これは論理構築を自明とする学問の世界で、およそあり得ない規定です。つまり、ある物理量30のことを「重さ30kg、重量30kg、質量30kg」とそれぞれどんな用語で表現されていたとしても単位の記号が「kg」と記述されてさえいれば、用語は何であれ「質量」と判断しなければならない、という驚くべき方針がうちだされています。

ただ、この文書の中で経産省は「用語も正しく使用することをお奨めいたします。」とも述べているので、この文章を読む限りでは、誰しも経産省は「質量:kg」という用語をもっぱら使用し、「重さkgや重量kgや体重kg」という「推奨できない」使い方はしないだろうと、思ってしまいますが、実はそうではありませんでした。「重量:kg」や「重さ:kg」などの用法をどんどん法律の条文でも使用していきます(注3)。

つまり、「用語の使用を明確には規定」しなかった理由は、逆に「質量kg」という用語を使わないで「重さkgや重量kg」という言葉で質量の意味につけ替えるための方便だったと推測されます。こうして「経産省・用語法」が誕生したのです。

そして「重さ、重量」の意味を質量につけ替える目的のみならず、そもそも意味をつけ替えることを始めることも国民に表明しませんでした。マスコミでも一部の例外(信濃毎日新聞)(注4)を除いてはこの種の問題にふれるような報道も行われませんでした。

(新)計量法の施行を前にして、経産省が準備したのは、「質量」概念を国民に理解してもらうための様々な広報・啓蒙活動ではなく、ひっそりと準備された経産省・用語法だった、と言って良いでしょう。そして、かれらが経産省・用語法を駆使して具体的にどういうプレス発表をしたのかは、次回でそれを見ていきましょう。

(注3)たとえば「民間事業者による信書の送達に関する法律施行規則」や「道路運送車両法」など。
(注4)「信濃毎日新聞」1992.5.9付けの「国際単位系への統一に反対」記事の中で「SIでは元来重量であるはずの体重を質量と言わせている。」(三笠正人、大阪市立大)と経産省・用語法によって体重を質量の意味に付け替えることをいち早く批判している稀少な例である。しかし、行政が「重さ、重量」の意味を質量の意味に付け替えているなどと指摘しても、当時国民には何のことか

わからなかったのでしょう、三笠氏の警告に対する理解は広がりを見せませんでした。そしてこの問題は、いま理科や物理を学ぶ人達が直面している「重量、重さ、質量」の混乱へとつながっていきました。

次回(その5)は、11月1日(日)にアップロードの予定。
(2015.11.1部分修正)

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なぜ起きる、「重量、重さ、質量」の混乱(その3)

By   2015年10月17日

森雄兒

なぜ起きる、「重量、重さ、質量」の混乱(その3)

■3.市民からみた(新)計量法とは、何か?

(その1)、(その2)から日本で起きている「重量、重さ、質量」の混乱は「学術用語」と異なった「経産省・用語法」に起因する事が明らかになったと思います。以下では、この問題に対してもう少し、時間のスパンを広げ、計量法の改正の意味から「経産省・用語法」をながめ、一体なぜこんな事が起きてしまったのか、その底流にあるものを考えてみましょう。

日本は1970年代以降、自動車産業を中心に低コストの部品製造工場を世界各国に建設していきました。こうしたグローバリズムという新しい資本の展開によって、国境を越えて商品の設計・製造・管理システムの一元化が不可欠になりました。財界はそのために、統一した単位系制定を政府に強力に要請していきます。他方、科学技術の急速な進歩から製品開発現場では、量子論や相対論が不可欠となり、使用する単位系の国際的評価が「重力単位系」から「SI単位系」へ大きく変化していきます。

こうした背景から1992年、SI単位を国家全体に丸ごと導入する、(新)計量法の制定が行われました。この法律の制定によって、市民生活にどのような影響があったのでしょうか。それを表1を使って簡潔に説明してみましょう。混乱表1-1

*表の中の「MKS単位」について: MKS単位系は、長さ(メートルm)、質量(キログラムkg)、時間(秒s)を基本とする単位系のこと

表1は1992年以前に(旧)計量法で生活に関連して使われていた主な単位の一覧です。(旧)計量法のもとでは、表にあげた2つ以外にも単位系はあり、研究対象によって能力が異なる複数の単位系が共存しながら社会が回っていました。
その表で注目して欲しいことが2つあります。
一つは、(旧)計量法では商品取引をkg、kg重、kgwなどの「重さ」の単位で行っていたことです。しかし、大きな問題がありました。それは、(旧)計量法では重力単位系の「力、重量、重さ」の単位の記号の一つに「kg」が使われていたと同時に、MKS単位系の質量の記号でも「kg」が使われていました。同じ記号「kg」が「重さ」と「質量」の2つの意味に使用されていため、混乱が絶えませんでした。
もうひとつは、N(ニュートン)という単位は、MKS単位系の「重さや力」の単位でしたが、地球の場所によって同じ質量でもわずかにその重さが変化するので商品取引に使えないことです。そのもう少し詳しい理由は(注2)を参照して下さい。

では、(旧)計量法の状態から(新)計量法に移行して、市民にとって何が変化していったのかを表1を使って見ていきましょう。
MKS単位を拡張したものが、SI単位(国際単位とも呼ぶ)ですが商品取引の問題に限定すると、MKS単位はSI単位と同じとみなしても差し支えがありません。そういうことから、これからはSI単位という言葉を使って説明していくことにします。

(新)計量法が施行されると使用できる単位はSI単位だけに限定され、それ以外のすべての単位(非SI単位)を廃止することにしました。この変化を、表1で見てみましょう。商品売買において、(旧)計量法の時代は上の欄の重力単位と下の欄の単位の両方の使用が認められていましたが、(新)計量法の時代になると下の欄のSI単位だけしか使用がを認められなくなりました。すると、この変化を念頭に置いたとき皆さんは、商品売買は、何の単位で行われることになると思いますか?

(新)計量法のSI単位では、重さの単位はN(ニュートン)しかありませんが、N(ニュートン)は、商品取引には不適な単位でしたので「重さ」で商品取引をすることはできません。表1を見ると残っているのは、難解な「質量」概念しかありません。
こうして見ると、実は(新)計量法とは、市民に「重さ」で商品売買することを禁止し、「質量」概念で商品取引をすることを義務化するという、歴史的一大転換をもたらす法律だったことが明らかになってきます。これが市民にとっての(新)計量法の意味です。しかし、なぜか経産省もマスコミもこのことについて沈黙し、国民に向かってこの説明がおこなわれませんでした。それでは経産省は、この(新)計量法施行を前にして市民のためにどんな準備と対応を行ったのか、それを次回に見てみましょう。

(注2)N(ニュートン)の単位が商品売買に使えない理由

質量が同じでも物体の重さは、地球の場所によって変化します。同じ大根でも東京より沖縄の方が重さが小さくなります。同じ質量の大根の重さをニュートン秤で測定するとこうした変化を検出するので、その値から場所に応じて質量の大きさを求める計算が必要になります。いちいち計算をしなくてもよいようにするには秤に2重目盛りが必要になり、実用性に欠けることになります。そこで日本各地で重さの変化することを考慮して、各地域ごとに、1kgの質量(標準体)を使って重さ1kg重の力を表示する秤を別々に作ります。こうして地域内で質量と重さの食い違い(誤差)を小さくします。(新)計量法では目盛板に、本当は重さを測定している目盛りですが、それを質量と近似してkgと表示します。

次回、なぜ起きる、「重量、重さ、質量」の混乱(その4)は10月25日アップロードの予定。

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