By   2015年10月24日

なぜ起きる、「重量、重さ、質量」の混乱(その4)

                                 森雄兒

■4.「経産省・用語法」を作った委員会

「重さ、重量」の意味のつけ替えを可能にするためのベースを構築した委員会があります。経産省の「SI単位等普及推進委員会」です。そこで製作された「新計量法とSI化の進め方」という文書に経産省・用語法が誕生するための枠組が書かれています。

「SI単位等普及推進委員会」とは、(新)計量法を実施するために経産省内部に設けられた正式の委員会で主な構成者は次の通りです。
委員長:桑田浩志(トヨタ自動車設計管理部)、副委員長:永井聡(経産省工業技術院計量研究所主席研究官)、筆頭委員:佐藤義雄(文科省教科調査官)、以下26名の各産業界などの代表者が名を連ねている委員会です。

その委員会で発行している「新計量法とSI化の進め方」のファイルのQ&Aに、それに関する該当部分があるので以下に引用します。文中(   )内の文章は文意を誤解しないよう筆者が補足し、また下線部は要注意の箇所を示しています。なおこのファイルは、誰でも「新計量法とSI化の進め方」のファイル名でネットから入手できます。

「Q21.重量という言葉は、(旧計量法が廃止されたあと)今後とも使用することができるか。」
「A21. ―――(前略)―――――(新)計量法では、用語の使用を明確には規定していませんが、SI化を機会に単位記号、接頭語などと同様に、用語も正しく使用することをお奨めいたします。重量を質量の概念で使用する場合にはその単位に”kg”を、力の概念で使用する場合にはその単位に”N”を使用します

「用語の使用を明確には規定していません」と、かなり重大な事がこともなげに触れられています。つまり、「質量」のことは、「重量」と呼ぼうが「重さ」と呼ぼうがかまわない。しかし「kg」という単位の記号だけは明確に「kg」と書かなければならない、と言う意味のことが述べられています。(新)計量法を実施するさいの方針は「単位の記号」管理が主目的で、「単位の用語」の使用は明確に規定しない、と述べているのが瞠目すべき点です。これは論理構築を自明とする学問の世界で、およそあり得ない規定です。つまり、ある物理量30のことを「重さ30kg、重量30kg、質量30kg」とそれぞれどんな用語で表現されていたとしても単位の記号が「kg」と記述されてさえいれば、用語は何であれ「質量」と判断しなければならない、という驚くべき方針がうちだされています。

ただ、この文書の中で経産省は「用語も正しく使用することをお奨めいたします。」とも述べているので、この文章を読む限りでは、誰しも経産省は「質量:kg」という用語をもっぱら使用し、「重さkgや重量kgや体重kg」という「推奨できない」使い方はしないだろうと、思ってしまいますが、実はそうではありませんでした。「重量:kg」や「重さ:kg」などの用法をどんどん法律の条文でも使用していきます(注3)。

つまり、「用語の使用を明確には規定」しなかった理由は、逆に「質量kg」という用語を使わないで「重さkgや重量kg」という言葉で質量の意味につけ替えるための方便だったと推測されます。こうして「経産省・用語法」が誕生したのです。

そして「重さ、重量」の意味を質量につけ替える目的のみならず、そもそも意味をつけ替えることを始めることも国民に表明しませんでした。マスコミでも一部の例外(信濃毎日新聞)(注4)を除いてはこの種の問題にふれるような報道も行われませんでした。

(新)計量法の施行を前にして、経産省が準備したのは、「質量」概念を国民に理解してもらうための様々な広報・啓蒙活動ではなく、ひっそりと準備された経産省・用語法だった、と言って良いでしょう。そして、かれらが経産省・用語法を駆使して具体的にどういうプレス発表をしたのかは、次回でそれを見ていきましょう。

(注3)たとえば「民間事業者による信書の送達に関する法律施行規則」や「道路運送車両法」など。
(注4)「信濃毎日新聞」1992.5.9付けの「国際単位系への統一に反対」記事の中で「SIでは元来重量であるはずの体重を質量と言わせている。」(三笠正人、大阪市立大)と経産省・用語法によって体重を質量の意味に付け替えることをいち早く批判している稀少な例である。しかし、行政が「重さ、重量」の意味を質量の意味に付け替えているなどと指摘しても、当時国民には何のことか

わからなかったのでしょう、三笠氏の警告に対する理解は広がりを見せませんでした。そしてこの問題は、いま理科や物理を学ぶ人達が直面している「重量、重さ、質量」の混乱へとつながっていきました。

次回(その5)は、11月1日(日)にアップロードの予定。
(2015.11.1部分修正)

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