Ⅰ.α線用霧箱
▒ Ⅰー2.霧箱の作り方(液体窒素の場合)
(STEP1) 準備
■液体窒素の代わりにドライアイスを使う場合、アルミのフィンは不要で、厚手のタオルを準備しましょう。また、塩化ビニール棒の代わりにアクリル定規でもよいです
■パイレックスガラス容器
ベーシックシリーズが良い。深さ8センチ、内径20センチ程度のもの。
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■紙、またはサテンの布
黒か紺。文房具屋や100円ショップにある。
■無水エチルアルコール1級
薬局にある。
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■マントル
キャンプ用ガスランタンの芯。アウトドア用品売り場にある。メーカーによっては、放射性物質を含んでいないものもある。
■ラップフィルム
■サランラップ(旭化成)が最適。
■発泡スチロールトレイ
スーパーなどで食品がのっているもの。
■アクリル定規、もしくは塩化ビニール棒(塩ビ棒)
文房具屋や100円ショップ、工作用品、水道関連売り場にある。
アルミのフィン:サイズは6.5×7㎝くらいが最適。
■光源;
通常の電気スタンドでもよい。
(STEP2)霧箱を作ろう
-
- ガラス容器の底に、黒いラシャ紙またはサテンなどの目の細かい布(アルファ線を見るだけであれば、黒いラシャ紙でよい)を敷く
- 2~3cc程度のアルコールを底に均等に散布する
- マントルなどの放射性物質を含んだものを入れ、ラップでふたをする
- 発泡スチロールトレイの中にアルミのフィンを置き、液体窒素を注いだら、フィンの上にガラス容器をのせる。ドライアイスを使う場合は、厚めのタオルの上でドライアイスを細かくくだく。そのドライアイスをタオルの上に容器の底の面積より小さめに平らに広げる。ガラス容器を粉末のドライアイスの上に直接のせるます。
- 部屋を暗くし、霧箱の横から、できるだけ明るい光源を当てる
(STEP3) 観察しよう
1分くらい待っていると、まわりに、白い飛跡が見え始めます。そうしたら、塩ビ棒をティッシュでこすって静電気を起こし、容器の10センチくらい上でお祓いするように左右に動かしましょう。さらに飛跡が鮮明にみえてきませんか。
ときどき塩ビ棒は、ときどきでこすりなおして静電気を起こし、よく帯電した状態にして、霧箱の上でふると飛跡がよく見え続けます。塩ビ棒の静電気は、だんだん放電し、なくなっていきます。
よく見えていた飛跡がみえなくなったときは、容器の底があたたまってきたときの可能性が高いです。その様子を確認して必要に応じて液体窒素を補給するかどうかを判断しましょう。
Q&A (クリックで表示)
Q:どうして静電気をもった塩ビ棒で霧箱の上を動かすの?
霧箱の中は、宇宙からくる放射線(=宇宙線)などによって、目に見えないイオンや微粒子が常に発生しています。これらの中でアルファ粒子が光速の20分の1というとてつもない速さで通過し、霧箱のエタノール分子や空気中の原子や分子から電子をはぎ取ります。アルファ粒子が通過した後には、膨大なイオンの山ができます。これらが熱運動で衝突し、イオンが成長していくのが凝結現象です。そこに数千^数万ボルトの帯電体を接近させ、イオンを運動させ近傍の微粒子やイオンと衝突させ、凝結現象を促進させる役割を果たすと思われます。霧箱にふたをするサランラップも帯電しているので、こうした凝結現象を加速する役割を一定程度果たします。塩ビ棒(負)の電荷やアクリル(正の電荷)で霧箱の近傍でスキャンするように振ると、大変効果的に凝結現象を促進させます。こうすると、見たい放射線の飛跡が鮮明に見えてきます。
私のイメージとしては・・、教室で生徒たちがワイワイガヤガヤ雑談をしている中で、誰かが意見を言おうとするとき、先生が手を叩いてしずかにさせるようなものかしら?
Q:霧箱にパイレックスガラスの容器の代わりにアクリルの容器で代用しても飛跡は見えるの?
見ることはできます。ただし、あまりおすすめはしません。α線が見えなくなる原因のほとんどは、容器全体が冷えて、霧箱内部の温度差がなくなってしまうことです。ガラス容器は冷えにくい(比熱が大きい)のに対してアクリルは冷えやすい(比熱が小さい)ため、往々にしてすぐ冷やし過ぎの状態になりがちです。
拡散型霧箱は内部の温度差がなくなると、内部の気体に熱対流がなくなると飛跡が発生する過飽和層の再生が難しくなるので、容器全体を冷やさないことがもっとも大切です。しかし、この点がいままでまったく霧箱の専門書では言及されてきませんでした。その対策として、冷えにくいガラス容器に初めて着目したのが『森の霧箱』なのです。
うまく温度管理ができればアクリルの容器でも、飛跡がきれいに見える場合がありますが、安定性はありません。2回目の実験や観察時間が長くなるとき、大体見えなくなります。アクリル容器はみえたらラッキーと思った方がよいでしょう。
学校の授業で霧箱の観察実験で使う場合、あるクラスで飛跡は見えたのに、次のクラスでは見えなかった!では大変です。連続して何クラス実験をやっても飛跡が必ず見える安定性が学校の生徒実験では必須です。アクリルはリスクの高い容器なのです。
僕のミルク皿でもできるかなぁ・・?ミルク飲んでるときに放射線見えたら困るけど・・。
ところで過飽和層ってなーに?
マントルみたいな身近な放射線源を使う場合でも、実験が終わったら、容器はちゃんと洗ってね。
過飽和層って、蒸気が凝結したくってたまらない状態のことじゃないかしら?
Q:液体窒素とドライアイスだと、見え方は違う?どちらがすぐれているの?
飛跡の見え方は変わりません。
動画では液体窒素を使っています。もし、先生が5クラスを担当しているとき、ドライアイスは1日でなくなりますから、授業進度を無視しても同じ日にすべて実施しなければなりません。それに対して液体窒素は2,3週間は保存可能なので、授業進度から最適な時にいつでも実験を実施できます。学校で何クラスもの生徒を対象に授業をしている場合には、生徒実験だけでなく演示実験実験でも液体窒素でなければ実施困難だろうと思います。液体窒素は保存タンクが必要になるので、家庭での実験はドライアイスの方がよいと思いますが、学校の生徒実験や演示実験では、液体窒素がダントツにすぐれています。また、同時に-200度の世界の貴重な演示実験ができる貴重な実験もできます。
Q:スーパーでもらう、小さいドライアイスでも見える?
はい、見えます。
ご家庭で手軽に実験される場合には、スーパーなどで手に入る粒状のドライアイスの上に直接パイレックスガラスを置く方法が最適でしょう。蒸発が早く、無くなるのが早いものの、家庭で実験する時間としてはちょうど良いと思います。10分くらいは飛跡が見えます。
大きなドライアイスを買うと、使い切れずに残ってしまうと思います。
ドライアイスって、水に入れてボコボコ湯気を出して遊ぶだけのものと思ってた・・。
身近なものを使って、こんな高度な実験ができるんだね。
Q:大きなドライアイスの塊でやったら、うまく見えません。
容器の底全体にドライアイスがあたっていることで、容器全体が冷えてしまったことが原因だと思われます。冷やす面積の目安は、およそ、容器の底の半分として、なるべく側面まで冷やさないようにしてください。
霧箱の容器より大きいドライアイスのブロックで冷やしているのを時々見かけますが、それは時間とともに容器全体を冷やしてしまい、熱対流がうまく起こらず、過飽和層の再生ができなくなって、飛跡が見えにくくなってしまうので、良い方法とは言えません。
冷やせばいいってわけじゃないのね。
Q:時間がたったら、だんだん放射線が見えなくなってきました。
α線が見えなくなる原因として、容器全体の冷やし過ぎのほかに、底の部分の冷やしすぎでエタノールが凍り始めることも考えられます。
底が白くなったらエタノールが凍り始めているので、容器を机の上におくなどして温度を上げてください。数分すると、徐々に鮮明な飛跡に戻ってくるはずです。この状態はエタノールの量が少ないとなりやすく、多いとなりにくいため、エタノールの量も調整してみてください。
Q:霧箱の実験は寒い部屋ですると,飛跡がよく見えるのでしょうか。
霧箱の実験は、液体窒素やドライアイスを使う実験なので、寒い部屋でなければいけないと思っている人がいますが、それは全くの誤りです。むしろ暖かい部屋で実験をすると飛跡がよく見えるようになるのです。もちろん、暖かい部屋の方がドライアイスや液体窒素は早く無くなりますが・・。
霧箱を側面から暖かい電球等で照らしてはいけないと言う人がいますが、実はこれも誤りです。容器の冷やしすぎ対策として、側面から白熱電球で照明し、霧箱を暖めるのはとても良い方法なのです。
これらのことは、すべて容器全体を冷やさないようにして霧箱内部に熱対流を発生させるために対策として当然のことなのですが、霧箱の専門書では「霧箱で対流を作ってはいけない」と全く間違った説明をしてしまったため、多くの人がそれをそのまま信じてしまっています。わたしも、それを一時、真に受けてしまいました。
専門書の著者の社会的な肩書きに迷わされず、実験をして自分の目で本当の現象を自分で確かめて自分で考えていきましょう。
それこそが「科学」(サイエンス)なのです。
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0.霧箱で見る様々な放射線
1.霧箱の作り方――ドライアイス用
2.霧箱の作り方――液体窒素用
3.霧箱の原理ーーー霧箱の飛跡は、どうして見える?
娘が夏休みの自由研究に、霧箱実験をしました。
購入した霧箱キットではうまくいかず、こちらのサイトを参考にして、
1. 容器全体を冷やさないこと。
2. アクリル容器よりもガラス容器がいいこと。
を知り、家にあった直径22センチのガラスのボウルで試してみたら、
部屋を暗くせずとも、LEDライトで照らさずとも、飛跡が見えました!!
お陰様で実験がうまくいき、自由研究も無事レポートにできそうです。
詳しい実験の仕方を掲載してくださったこのサイトがあって本当によかったです。
ありがとうございました。
私もはじめはアクリル容器で数え切れないほど霧箱を作りましたが、ときどき見えることがある程度のものしかできず弱り果てていました。実験をする以上必ず飛跡が見えるのが霧箱なのにそうでない霧箱がほとんどです。飛跡が見えるには、いくつか条件が整わないといけないのですがアクリルはその条件が整わないのです。そのためアクリルは見える条件が整う確率がとても小さいのでおすすめできません。
ガラスの容器だと飛跡が安定しているのでもし照明を明るくするなど工夫すると宇宙線も見えていることに気づきます。
(y.mori)
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