Ⅰ. アルファ線用霧箱(入門編)
▒ Ⅰー3.霧箱の原理―――飛跡はなぜ見えるのか?
❐霧箱の白い飛跡は何か?
右の写真では、霧箱の中のユークセン石からあらわれては消える、白いひこうき雲のようなものがみえます。これは、アルファ線が通った跡です。
(アルファ線の飛跡は、霧箱の底をはうように進んで行くことが、10円硬貨と比較すると分かると思います。このように飛跡が見える層は薄く、これを過飽和層と呼んでいます。この霧箱の状態では、10円硬貨の厚さ1.5mmなのでおそらく、飛跡が見える過飽和層の厚さは3~4mm程度であることがわかります。アルファ線は同じ速度でランダムに放出されているので、もし過飽和層がもっと厚ければ飛跡は半球状に広がる様子になることが想像できるでしょうか。
このアルファ線の正体は、高速で進むヘリウムの原子核であまりに小さい粒子なので、電子顕微鏡でもその姿をとらえることはできません。
では、なぜ霧箱を使うと、電子顕微鏡でも見ることができないそんなに小さなものが通った跡を目で見ることができるようになるのでしょうか。それを次に考えてみましょう。
❐原子核のつくるひこうき雲
青空に伸びるひこうき雲。あれは、飛行機のエンジンから噴きだす水分と排気ガスの小さなチリが急速に冷却され、チリを核にして、水分が次々にくっついて、急激に成長し目に見える水滴の粒子になり、雲ができるのです。
霧箱の中でも、これと同じようなことが起こっているのです。霧箱の場合は、水分の代わりにエチルアルコールで充満されています。
アルコールがたくさん含まれた空気の中を、放射線(=アルファ線)が猛スピードで通り過ぎる。すると、強い風で木の葉が吹き飛ばされるように、原子核の通り 道の空気の原子の中の電子がはぎとられます。アルファ線の通った跡には、大量の電子と電子を剥ぎ取られた原子(=イオン)がとんでもない数が残ります。これを核にしてアルコールのひこうき雲ができ、目に見える大きさに成長し、原子核のつくるひこうき雲ができていくのです。