By   2016年1月27日

 Ⅱ.霧箱(アルファ線)発展編

 4.金箔によるアルファ線の散乱実験
█ ガイガー・マースデンによるアルファ線の散乱実験

20世紀の初めに、原子の内部構造がどうなっているのか、論争になっていました。
ラザフォードは、金箔にアルファ線を打ち込む実験を学生のマースデンにさせてみるように助手のガイガーに指示しています。

ガ イガーとマースデンは連日機関銃のように放射線を金箔に打ち込み続けました。まるで、野球場に落ちている10円玉めがけて、機関銃を乱射しているようだと もいわれる実験です。(まさに右図を見ていると、衝突と言うより散乱といった方がぴったりくるのが分かると思います。)
しかし、8000個のなかの1個がまともに跳ねもどされてきました(後方散乱)。これが、のちに原子核の存在を確認するきっかけとなる実験です(1909年ロイヤルソサイティに報告)。p22.トムソンの原子模型

 トムソンモデルをさまようラザフォード

その2年後(1911年)ラザフォードはそれを原子核とは呼ばず「、帯電体」と呼びサイ ズを原子の10万分の1となるという計算に成功しています。そして、ラザフォードは、原子のトムソンモデルを否定するのではなく、トムソンモデルの修正路線をとり始 めます。

この年にひらかれた第1回ソルベイユ会議(1911年)でラザフォードは沈黙しこのことを報告していません。アインシュタインもキュリーも「あの 散乱実験のことはどうなったの?」などと話題にも取り上げられていません。つまり、ラザフォード自身も含めて誰もが「帯電体」の発見とその解析結果は、原子の有核構造とは無関係で画期的な発見とはまったく見ていなかったのです。その理由は、原子核の回りを電子が回転するモデル(有核モデル)は、電子が電波を発射しエネルギーを失い、原子核へと落下していく、 非常識な理論でだったからです。原子のボーアモデル小小

このためラザフォードは依然として古典物理の枠の中で思索をめぐらし、新たに発見した「帯電体」をトムソンモデルといかに共存さ せるかという折衷案を考え迷走していたのです。西尾氏によると1912年頃になると、ラザフォードは「帯電体」という言葉から「原子核」という言葉を使い始めているという指摘がなされていますが、この言葉をとりかえてもラザフォードは古典物理の枠内で混乱し続いているだけでした。

█ ボーアの原子構造論とパラダイムの転換

そんなとき、デンマークからやってj来た新人の物理学者・ボーアがキャベンディッシュ研究所に登場します。ラザフォードはボーアの大胆な理論に不安を感じ、絶えずボーアに発表の自重を促していました。しかしボーアは、1913年量子論を原子の世界に持ち込み「原子構造論」を発表し、量子力学から原子の有核構造とスペクトルの謎を次々に説明していきました。ここでボーアによって、ようやく原子の構造をあきらかにする扉が開かれパラダイムの転換がおこったのです。

ボーアたち2小 この扉の中には、もうトムソンモデルは完全に役割を終え、消滅していました。1914年ラザフォードはこのボーアの扉から有核構造の世界に入り、はじめてガイガーマースデンが発見し、自分がその大きさを計算した帯電体が原子核であることを確認します。

█ 高校物理の教科書にみるラザフォード神話

このガイガー・マースデンの散乱実験は、ボーアと量子論を自明の常識とする現在のわれわれから 見てあまりに劇的!ですが、ラザフォードやE.トムソン、アインシュタインなど当時の科学者にとっては、全くそうではありませんでした。このボーアによってもたらされた劇的な飛躍を無視して高校物理のほとんどの教科書は、実験を発案したラザフォードを「実験によって有核構造」をあきらかにした!と神話化してしまっています。しかし、科学的事実は、幼児向け科学者英雄列伝のようにそう単純ではありません。

(参考文献)
①「物理学史Ⅱ」広重徹、培風館、
②「ニール・スボーア論文集2・量子力学の誕生」山本義隆訳、岩波文庫、
③「こうして始まった20世紀の物 理学」西尾成子、裳華房

▓ 5.霧箱での金箔の散乱実験ーー前方散乱

こうした実験は、私たちが毎日体験している身近な現象とは、かけはなれていると思われるでしょうが、そうでもありません。、霧箱を使って、身近な鉱物からでるアルファ線と金箔で散乱の実験をしてみましょう。

アルファ線用の霧箱にユークセン石と金箔を置きます。放射状に発射されるアルファ線は、ときどき金箔の方向にやってきて透過していきます。多くのアルファ線は透過し、何もおきません。特に、ガイガー・マースデンの後方散乱は8000ヶに1ヶですから簡単にはいきません。しかも霧箱は狭い過飽和層だけしか見えませんので、さらに発生確率は低いはずです。しかし、右の写真のような角度が小さい前方散乱の現象はときどき観察できます(30分で1,2ヶくらい?)。それが右の写真です。

これで思わず、アルファ線が折れ曲がったところに、金の原子核の存在を感じられないでしょうか。

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