By   2011年10月2日

アルファ線とヘリウムの原子核の散乱                                             (森、佐藤)

1.はじめに

α線の散乱か つて,さまざまな気体とα粒子の散乱の写真を撮影ていました。この(写真1)は,そのなかのヘリウム原子核との散乱の1枚です。これから,散乱映像の説明 とこれを教材化する試みを2回ににわけて紹介します。撮影のいきさつと散乱映像の説明をし,授業の実践例を提案します。

2.α線の散乱はめずらしい現象か?

写真 1.α線の散乱

霧箱は,「α線用の森式霧箱」を使って撮影をしました。その霧箱の詳細は,すでに発表済なので,ここでは省略をします。もし「α線用の森式霧箱」の作り方など詳細をお知りになりたい方は,サイトの中に製作方法を紹介した動画映像がありますのでそれを参考にして下さい。

通 常,空気中でのα線の飛跡を観察していると,飛跡の終端部分によく枝毛のようなY型の飛跡が見つかります。これが空気中の酸素や窒素とα粒子が散乱してい る飛跡です。ただ,ほとんどの人はこれに気づかないようです。理由は,散乱のY型がとても小さくしかも先端部であること,さらにそもそも散乱現象などの発 生確率が低く観察できるわけがないと決めてかかっているからではないかと思います(注)。

な んといっても,金箔にα線を打ち込むラザフォード散乱の固定観念が大きいのだと思います。確かに,α線が光の速さより一桁小さいあたりの速度で運動してい る場合は,散乱現象は,なかなかおきないと思います。しかし,α粒子の飛跡の終端部分では,その速度が急激に減速しはじめるので,散乱が飛躍的におきやす くなり,そう珍しい現象でもないのです。線源にもよりますが,見えるはずと思って霧箱を5分ほど観察してみると1,2個は見つかると思います。そのほとん どは、空気中の酸素の原子核か窒素の原子核とα粒子との散乱です。

3.α線とヘリウム原子核散乱の撮影方法について

生徒掲示ポスター空気中の酸素や窒素の原子核との散乱はよく起きますが、α線とヘリウムの原子核の散乱は滅多に起きません。
空気中に天然に存在するヘリウムガスガスがあまりに少なすぎるのと、サイズが小さいので散乱がおきにくいのです。
そこで,霧箱の内部に人為的にヘリウムガスを注入して,撮影を行なうことになります。霧箱内部に線源のユークセン石をいれます。ユークセン石からでるα線の飛跡を見ながら過飽和層が形成されたところで,霧箱の内部にヘリウムガスを注入します。
もちろん,たちまち過飽和層は崩壊しα線の飛跡は見えなくなります。この「森式霧箱」の特徴は,はじめて熱容量の大きい厚いガラスを使い,側面から光源の 熱で暖め,熱対流によって過飽和層の再生を迅速に行えるようにすることをめざしている点です。そして,熱対流が底の薄い過飽和層の復元力となり短時間でこ われた過飽和層を再生させてしまうと言うものです。ところが,専門書では「対流が生じ安定には動作しなくなる。」と述べていたりしているために,霧箱の製 作者や現場の教師に大きな誤解をもたせる原因になっています。
ヘリウムガスを注入後,しばらく待ち,過飽和層が再生したら撮影に入ります。撮影していると,相当に霧箱の密閉に気をつかっていてもヘリウムもれを阻止す るのは無理です。しかもヘリウムは軽いのですぐ霧箱の天井に集まってしまうはずです。時間とともにかんじんの過飽和層のある底の部分にはヘリウムガスは希 薄になっているのではなかろうかと,推測。そのため,5分おきくらいにヘリウムガスの注入作業をくりかえしながら撮影しています。こんなことをしなが ら,500枚くらい撮影した中の1枚が(写真1)です。

4.教材づくりのための写真の解析

次に、その写真の解析と、教材の作成過程および授業を行ったときの生徒の反応などをまとめてみました。

散乱後の原子核のうち、Aは飛跡が短く先端が細くなっていることから、十分に減速する前に過飽和層の外へ出て行ってしまったと考えられます。一方Bは、飛跡が約1cm弱と比較的長く、*飛跡後半が微妙に膨らんでいるように見えるので、熱原子核になる直前?まで過飽和層内に存在し、飛跡をつくったのではないかと考えられます。(あまり自信はないのですが、そうでないと教材にしづらい…)

*α粒子は、熱原子核になる直前(飛跡先端から3mm~5mmあたり)で最も電離性が強くなる。
そのため熱原子核になるまで過飽和層に存在したα粒子の飛跡は先端が膨らむことが多い。
また、アルファ粒子は速さが十分に遅くなってから散乱されることが多く、さらに散乱後1cm弱の飛跡を残していることから、熱原子核になる直前である可能性が高いと考えられる。
(資料1参照)

これらの事に大きな誤りがなければ、Bの飛程からAの粒子や散乱直前のα粒子のエネルギーを概算することも可能です。また、概算した値からこれまでの解析に誤りがないかどうかの大まかな裏づけも取れるはずです。

授業のプリントの流れ

授業時間の効率化とこちらで授業を進める上で便利なので、生徒用のプリントを作成しました。 その際、以下のような流れで展開しました。

  1. 写真の解説
  2. 分離角の測定(解析1)
  3. 反跳原子核の質量の推定(反跳原子核の同定)(解析2)
  4. 散乱角と反跳角の測定(どちらが散乱角または反跳角か不明)(解析3)
  5. 飛跡の長さと運動エネルギーとの関係について説明
  6. 運動量保存の法則からAの粒子の運動量の大きさを推定(ベクトルの作図)(解析4)
  7. 10円玉を使った散乱のシミュレーション(生徒実験)
  8. 散乱角または反跳角の大きさと散乱後の粒子の速さとの関係
  9. まとめ(解析した結果)
  10. 応用問題(散乱後の飛跡から散乱直前のα粒子のエネルギーと速さの算出)

α線の散乱(運動量の応用)プリント ダウンロード

α線の散乱(運動量の応用)解答プリント ダウンロード

生徒の反応について

3年選択物理の生徒はすでに運動量の授業(同質量2次元弾性衝突)は終了しており、また2年次に霧箱の生徒実験をやっているので、導入にはなんら問題がありませんでした。2次元の衝突になることや、過飽和層が薄いために途中で飛跡が途絶えてしまうことと写真に写った飛跡の形との関連は、右写真のように上質紙を丸めて飛跡のモデルを作り、見せることで、生徒は納得できたようです。(上の薄色の部分が飛跡が途絶えたと思われる部分です。)

その後、⑨のまとめまでは、多くの生徒が理解したようにみえました。最後のエネルギーと速さの計算は、理解した生徒はごく一部かも知れませんが、α粒子の飛程とエネルギーとの関係やα粒子の電離性等について実感ができたのではないかと思われます。

おわりに

最終的な結果としては、AとBのどちらが散乱核でどちらが反跳核かは判断できませんが、He4の原子核に散乱されたという事が解析の結果判明し、さらに散乱直前のα粒子のエネルギーは約3MeV、そのときのα粒子の速さは1×107m/sという結果が出ました。ほぼ妥当と思われる値が出てひと安心しました。生徒にとって、今まで勉強した事が実際に利用できるという経験はとても貴重であり、今後も物理を学んで行こうという意欲につながったのではないかと考えます。 (資料2,3参照)

参考サイト:日本原子力研究開発機構
科学技術振興機構 研究成果展開総合データベース(J-STORE)

資料

資料1

資料2

資料3

http://jstore.jst.go.jp/patent/detail/13386.html

※いずれも日本原子力研究開発機構ホームページより

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