By   2013年4月8日

はじめに

波動の授業において「光の干渉」の単元は、それまでの波動の授業の集大成の1つとして最後の方に行うのが通例だと思います。くさび形空気層での光の干渉やニュートンリングは、光が反射する際の位相の変化に注意すれば(といってもここも鬼門の1つですが…)、比較的生徒に受け入れられる現象でしょう。しかし、薄膜の干渉のときに、生徒にとってさらに壁になっているのが「光路長」や「光路差」です。
毎年、ここの説明をすると、何人かの生徒が授業の後に「光路長が分からない!」と質問に来ます。何人か質問に来るということは、多くの生徒が理解していないと捉えるべきでしょう…(泣)。

光路長の指導のポイント

光路長を理解するには次の3つの事をクリアしなければならないと考えます。

Ⅰ.波の速さが変化しても振動数は変わらないということ

特殊な場合を除いて、振動数が変わるのは、波源と観測者が相対的に動いているときだけです(ドップラー効果)。

Ⅱ.物質中で光の速度が遅くなり波長が短くなるということ

ここに引っかかっている生徒の多くは、v=fλの式を使って計算はできても、実際の現象にこの式をあてはめて考えるという経験が足りないので、真の理解には至っていないのだと思います。(おそらく振動数が不変であることを実感できていない。)

Ⅲ.位相の変化は距離によるのではなく時間により決まるということ

波の伝わる速さが変化しても振動数は変わりません(上記Ⅰのこと)。従って、異なる媒質に入射し、波の速さが変化すると、波長は変わりますが位相の変化するテンポ(周期)は一定です。つまり、位相の変化は波長で判断するより時間で判断した方が正しいのです。例えば、光が薄膜(屈折率2、厚さd)を法線方向に通過する時間は、光が真空中を2d進む時間に等しいので、どちらも位相の変化は同じです…。

図1 1以上のうち、今回はⅡについて、気柱共鳴の実験で布石を打つことにしました。まず、通常通りに測定をし、次にガラス管を二酸化炭素で満たして同様に実験を行います。音速が変わることで波長が変化することを実感させ、後に光の干渉の単元で、光路長の概念に結び付けようと考えました。屈折の本質を理解させるということでもあります。

実験前までの流れ

教科書にはあまり出ていない、次のことを授業で確認しています。この内容と今回の実験の狙いはほとんど同じです。

①音速は何で決まるか?
気温と媒質で決まる。(湿度の影響は私の計算では1%以内です。)
音源が動いても音速は変わらない。
振動数が異なっても音速は変わらない。
(例)もし振動数が大きいほど音速が大きいとすると、コンサートは成立するか?

②波の速さが変わると、何が変わって何が変わらないか。
(例)津波…津波が岸に押し寄せてくるとき、水深が浅くなり波の速さは遅くなる。      このとき、波長は短くなるが振動数(周期)は変わらない。つまり、海      岸付近でも沖の方でも津波の周期は変わらない。
野外音楽堂のコンサート…
ステージは照明や音響機器で気温が高く、客席の気温は低い。よって客席に向かう音波は途中で遅くなるが決して振動数は変わらない(変わったらコンサートにならない!)。このときも波長が短くなっている。

図2

実験

ご存じの様に、気柱共鳴の実験は、共鳴がピンポイントで生じ、また多くの班が一斉に実験を行っている中で共鳴音を聞き分けなければならないので、共鳴点を探すのに時間がかかります。更に、50分の授業で空気の場合と二酸化炭素の場合の2種類の実験を行うには効率よく共鳴点を見つけなければなりません。そこで、先に共鳴点を予想させることにしました。手順は次の通りです。
①気温を測り、音叉のおおよその値をこちらから示します。
(音叉に850Hzとあるので、ずばりこの値を示しました。実験値がぴったり合うこ とはまずないでしょうから…?)
②空気中の音速と波長を計算させ、2つの共鳴点の位置を予想させます。
③水位を下げながら第1、第2共鳴点を測定します。
④同様に二酸化炭素中の音速と波長も計算させ、共鳴点を予想させます。
⑤空気柱の第2共鳴点の位置で二酸化炭素を充填し、水位を上げながら2つの共鳴点 を測定します。
※共鳴点を予想する際、共鳴管の中の定常波をイメージするので、生徒は目的を持って実験に臨むようになります。

二酸化炭素の充填

図3空気中の実験が終わった班から順に二酸化炭素を充填します。二酸化炭素は、(写真)の様にカートリッジ式でチューブの着いたバルブを取り付けて、教員が充填するようにします(生徒にはちょっとやらせられませんね…)。ドライアイスを使って充填しても良いのですが、保存を考えるとカートリッジ式のほうが良いと思います。

二酸化炭素は見える!?

問題は、どのくらい入れたらガラス管内が二酸化炭素で充填されるかということです。あふれてしまうともったいない…(最近、教科予算は減る一方なのです)。二酸化炭素は見えないので、初めは適当に「シューッ」と充填するだけでした。データを使った計算結果から、「まあまあ入っていたな」とか「ちょっと足りなかったかな」といった感じです(笑)。シャボン玉を二酸化炭素の層に浮かせることも考えましたが、すぐにガラス管の壁面にくっついてしまうだろうと思い実行していません。
図4 もう少し何か判断する方法はないものかと考えていたとき、あるクラスの授業中に、何と二酸化炭素が見えました! えっ?と思われる方。ぜひやってみてください。背景に天井の蛍光灯がある位置に立ってガラス管の開口付近を観察すると、まるでかげろうの様に二酸化炭素がもれ出て来るのが見えます。残念ながら写真には写っていませんが確かに見えるのです。よくよく考えれば、二酸化炭素の屈折率は1.25程あるので屈折率1.00の空気中で見えるのは当たり前かもしれません。もしや、知らなかったのは私だけ…? ホント思い込みは禁物です。二酸化炭素ガスは空気中で見えるのです。空気と二酸化炭素ガスの境界は見えるといった方が正確ですね。
かげろうのような二酸化炭素が見えても、すぐには止めずもう少しだけ充填します。高圧ガスなのでガラス管内に気流が生じ、満杯にならなくても漏れ出てくるのです。なるべくゆっくり充填するのが良いのですが、全部で10班以上もあると、そうそうのんびりもできません。あとは勘が頼りです!

生徒の反応

気柱共鳴の実験については、感想欄を見る限り、「定常波の意味が分かった」とか「腹や節の意味が分かった」、「二酸化炭素中では波長が短くなることを実感した」…など、例年以上によく理解している様です。
そしていよいよ目的の光路長の説明です。まず音波が空気中から二酸化炭素中に入ると音速と波長はどう変わるか、ということを思い出させます。次に、光が空気中から薄膜に入ると光速と波長はどう変わるか、と投げかけます…。結果、授業後の質問はほとんどなくなりました。
ただし、ポイントのⅢで挙げた点、即ち位相の変化は経路の長さで決まるのではなく時間で決まる、というところから光路長に話を持っていくとき、頭を傾げる生徒が多かったので、その場で再度説明をしました。位相が時間で決まるなら、「屈折率nの媒質の中で光速は一定と考え、代わりに距離がn倍に長くなった、としても通過時間は変わらない、よって位相の変化も変わらない。」といった内容です。これで何とか理解してもらえたようです。

まとめ

今回の気柱共鳴の実験により、光路長のところの問題の1つ(光は物質中を通る際に、振動数は変わらず速さと波長が小さくなること。)はほぼ解決できたと考えています。そこから光路長と位相の関係に展開していく過程(位相の変化は距離でなく時間で決まる)については、もうひと工夫したい所です。

実験に使った器具

気柱共鳴実験装置一式(島津)
実験用気体バルブとカートリッジ(二酸化炭素)(ナリカF35-1913) 11,000円
(補充用)二酸化炭素カートリッジ36ℓ     (ナリカf35-1913-01) 1,500円

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