霧箱のサイエンス(6) β線の見える霧箱
いよいよβ(ベータ)線の霧箱に挑戦です。これができると反電子も観察することができるようになります。作り方の説明へ進む前に、少しだけβ線の話をしましょう。電流もβ線も実態は、同じ電子です。
STEP1 : ベータ線と霧箱の話
ベータ線って、何?
豆電球が点灯しているとき回路に電流が流れ、電子は導線の中をカタツムリくらいの速さで移動しています。その電子が、今度はとんでもない速さで原子核から飛び出してくると、それを 「β線」(ベータ線)と呼んでいます。電流もβ線も正体は、同じ電子ですがエネルギーの大きさは全く違います。
(左画像:グローランプから出るベータ線・クリックで拡大します)→
β線霧箱って特別なもの?
α線用の霧箱でも、実はベータ線の飛跡はできています。ただ、電子はヘリウムの原子核に比べ質量が約2万分の1も小さいので、α線のようにはたくさんのイオンは作れません。そのためベータ線の飛跡はクモの糸のようにとても細く、見えにくいので、飛跡ができていてもほとんどの人は気がつきません。
その見えにくさを解決するために、α線の霧箱に少し工夫を加えたものがベータ線霧箱です。原理はα線霧箱と同じです。まず、ベータ線の飛跡がどういう風に見えるのか、霧箱を運転する様子と飛跡をビデオで見てみよう。ベータ線が見える霧箱ができれば、反電子の飛跡もみえていることになります。
STEP2 : ビデオでβ線の飛跡をみよう
準備するもの
STEP3 : 霧箱の作り方
- パイレックスガラス
ベーシックシリーズが良い。深さ8センチ、内径20センチ程度のもの。それが手に入らなければ角型でも可。できるだけ容積の大きいものが望ましい。
パイレックスガラスの側面に黒い布をガムテープで貼り付ける。

- サテンの布、アクリルシート、線源を入れる
・サテンの布(黒か紺の色)を底にあわせて切り抜き底にしく。
・青いアクリルのシート :カロピンプレート0.5㎜厚,クリア青(笠井産 業KK)(東急ハンズ渋谷店などにはあり。)入手できない場合は、省略。ベストの状態ではないが飛跡は見える。
・線源を霧箱の中にいれる。
・線源はビデオではグローランプの芯を使ったが、
マントル(キャンプ用ガスランタンの芯。)や鉱物標本のユークセン石が入手しやすい。
(注)マントルやユークセン石からはβ線だけでなくα線も出ているので黒いラシャ紙などで包みα線を遮蔽する。

- 無水エタノール
側面の布と底の部分にエタノールを注入。底の部分にはフィルムケース1杯半くらいのエタノールをいれる。(エタノール:1級 薬局にあり。)

- ラップフィルム
きっちりと(!)ふたをする。サランラップ(旭化成)が最適。厚く、やぶけにくい。

- 液体窒素の注入
発泡スチロールトレイの中にアルミのフィンを入れ液体窒素を注入する。
・発泡スチロールトレイ: スーパーなどで食品をいれているもの。
・塩化ビニール棒(塩ビ棒)。工作用品や水道関連売り場にある。
(注)さらに感度をあげ宇宙線なども鮮明に見たいときには、ガラスの 霧箱とアルミのフィンのあいだにアルミの板 (20 ㎝×18 ㎝)くらいのものをいれる。
ドライアイスの場合
液体窒素が入手できないときにはドライアイスでも可能。ドライアイスのサイズは、霧箱の底面積くらいの大きさ。ただ、時間とともにすべりおちたり、ドライアイスに凹凸ができ冷えにくくなるので注意が必要。

- 光源で照らす。
光源はスライドプロジェクターがおすすめです。蛍光灯のような面光源は飛跡にコントラストを作りにくいので不適。明るいLEDでも可。

- 帯電した塩ビ棒
帯電した塩ビ棒を霧箱の上でスキャンする。
霧箱の中には、宇宙線が次々につくるイオンを作っている。そのため、ベータ線の作ったイオンと混じり飛跡が鮮明に見えなくなる。塩ビの帯電棒でスキャンをして宇宙線が作ったイオンを掃除する。霧箱内部のゴミやホコリがエタノール蒸気で洗い流されるまで10分くらい待つと、飛跡が見える条件が整ってきます。

Q&A (クリックで表示)
Q:β線がどうしても見えないとき、一番注意することは何ですか?
α線は、とても目立つ飛跡なので、だれも見逃す人はいませんが、ベータ線は、本当に多くの人がよく見逃します。β線はとても細く、美しい飛跡ですが集中してさがさないと見逃します。そのためベータ線はどういう飛跡なのか、まずビデオ映像や写真で見本の飛跡をよく見ておくのがよいと思います。ただ、見本はスピードが遅くてよく飛跡が目立つ場合です。スピードが速いベータ線は、さらに飛跡が細く絹糸のようになります。見逃さないために、照明装置はフィラメントのある点光源や線光源にし、飛跡は逆光の方向からみましょう。蛍光灯のような面光源は避けた方がよいと思います。逆光にすると飛跡のコントラストが格段によくなり、いままで見えなかった飛跡がよく見えるようになることが起こります。
Q:β線霧箱は、セットしてから5分くらい待たないと飛跡が見えません。なぜ?
電子は質量がとても小さいので、通過したあとにはチョットしかイオンを作れません。霧箱内部のチリやホコリ、残留イオンの影響をまともに受けます。
飛行機雲でたとえると、ベータ線の飛跡はとても細い飛行機雲です。チョットでも薄雲がかかると、たちまち見えなくなります。快晴の青空にしてやらないと飛行機雲が見えないので、霧箱の中のチリやホコリ、残留イオンなどを徹底的に取り除く必要があります。
エチルアルコールを注入したあと霧箱を5分ほど冷却し続けて待つのは、アルコールの蒸気を十分に循環させることで、霧箱内部のチリなどをきれいに洗い流すための時間です。
その後、塩ビ棒をこすって静電気を加え宇宙線がつくる残留イオンを取り除けば、細く美しいβ線の飛跡が徐々に現れます。

β線はα線とくらべるととても質量が小さく約8千分の1らしいよ。

ということは、ヘリウム原子核の質量を60㎏の人の質量に例えると、電子の質量は10円玉程度になるってことね!

計算早いね!
Q:ベータ線の飛跡はいつもくねくね蛇行するの?
グローランプなどから出るβ線を観察すると、まるで酔っぱらいが右や左によろけて歩いるようなくねくねした飛跡がみられます。グローランプの場合のベータ線の速度は、小さいため、質量が巨大な酸素や窒素原子とであうと、静電気の力を受けて右や左によけて進むのです。
それに対して、宇宙線やユークセン石からでるβ線の時には、運動エネルギーがとても大きいので酸素や窒素の巨大原子が立ちはだかるのをものともせず、原子のそばや内部をハイウェイを疾走するように一直線につきぬけていきます(原子の内部は原子核を除けば、空っぽの空間といってよいでしょう)。
Q:ベータ線霧箱から反電子も見えるの?
もしβ線がみえる高感度の霧箱の状態ができれば、そのときには反電子やµ粒子など、イオンを作る高速粒子ならばほとんど見えるようになった、高感度の状態ということができます。それだけにβ線を明瞭に見えるようにするためには、α線の場合よりいろいろ工夫が必要です。
ただ、霧箱に電子と反電子の飛跡がみえていても、どれが電子でどれが反電子かはわかりません。それを区別するために磁石が必要です。それは次回の話です。
Q:α線、β線、γ線の名前の由来はなんだろう?
α線、β線、γ線という名前は、発見当初は、その正体がわからなかったので、放射線をα、β、γと順番に名前をつけています。もし日本で発見されていれば、イ線、ロ線、ハ線とつけている感覚でしょう。今はベータ線の正体が電子とわかったので、ベータ線は電子線とも呼ばれます。同じような理由で、α線はヘリウム線とも呼ばれます。ただ、原子核から飛び出してきた電子はベータ線ですが、人間が発生させた電子、たとえばテレビのブラウン管で発生・加速させた電子は、ベータ線と呼ばず電子線と呼び、その出生で区別すべきだという意見もあります。ただ、自然界の高速電子は何が原因で高速になっているのかは、判然としない場合が多く、出生によって電子の呼び名を変えるのは困難な場合がたくさんあります。

α線、β線、γ線というととても難しそうで高級なことに聞こえるけど、イ線、ロ線、ハ線というとなんだか気が抜けちゃう。でも、欧米の生徒は、そういう肩の力がぬけた感覚で、α線、β線、γ線を勉強しているのね。