By   2011年4月3日

            アマチュア無線機を利用した電磁波の実験

~ 光が電場と磁場の振動であることをどのように伝えるか ~

                              佐藤 正隆

はじめに

光は電磁波の一種であり、電場と磁場が互いに垂直な方向に振動している横波である、ということをどのように伝えましょう。教科書の挿絵(右図参照:啓林館 高等学校 物理Ⅰ 改訂版より)を利用して口頭で説明する方法が一番手っ取り早いのですが、この様な図だけでは、生徒の方は実感の無さにポカーンと口を開けて?聞いているだけになってしまいます。そこで、光と同じ電磁波である電波やマイクロ波を利用して、今まで、主に次のような実験が行われています。

  1. 教材として売っている電波実験機を利用する方法
    電磁波の回折や屈折など様々な演示が可能ですが、マイクロ波を利用しているため波長が短く装置も小さくなるので、どうしても演示効果が減ってしまいます。また、磁場の振動の演示ができないのと、生徒へ伝える手段が音であることも今ひとつです。
  2. 誘導コイルの火花で電磁波を発生、自作受信アンテナでネオン管を光らせる方法
    メカニズムが単純明快で、また、電場の振動の様子を視覚で確認できるのでとても分かり易いの様です。ただ、電磁波が比較的弱く、ネオン管がそれほど明るく光らないのが残念な点です。(ただし、誘導コイルを改良し効率よく電磁波を出させている方もいらっしゃいます。)
  3. アマチュア無線機の電波を自作アンテナで受信し豆電球を光らせる方法
    主に波長70cmのバンド(430MHz帯)の電波を出し、自作のダイポールアンテナで豆電球を光らせます。電場の振動の方向が明確に分かり、定常波の腹や節の位置を調べて波長を測定できます。
    (注)アマチュア無線機で実験を行うには、アマチュア無線技士の資格(試験あり)と無線局免許(申請のみ)が必要です。資格は第4級で十分です。(4級でも送信出力20Wまで可能)

紹介する内容

今回紹介する授業展開は、③と同様にアマチュア無線機を利用します。しかし、さらに次のことを目的としています。特に3.が重要です。

  1. 電場だけでなく磁場の振動も示す
  2. 自作の格子を使い、電波の電場面と格子の方向の為す角度により、透過と反射の割合が変化することを示す
  3. 光波の場合は格子の代わりが偏光板であることを伝え、光も電磁波であることを示す

前提として

この単元の前に、生徒が電波の発生の簡単なメカニズム(アンテナ内を電子が振動することで電磁波が発生する)を理解していることと電場と磁場が変化することで互いに相手を生み出していること(電磁気の授業が済んでいればOK)を理解していることが理想です。理解していなくても豆電球が光ることで実感できるとは思いますが…。私は3年選択の生徒に、電磁気・交流が終わったあとの12月に電気振動の続きとしてやっています。

実験器具

送信アンテナ(八木アンテナ マスプロ ウェーブハンター435WH8) ← 販売終了しています。
受信アンテナ(自作半波長ダイポールアンテナ と 自作ループアンテナ)
自作格子
直流安定化電源(13.8V5A) ← 例えばこちらから購入できます
無線機(FM430MHz帯10W KENWOOD TM-701) ← 販売終了しています。
※ここで使用した送信アンテナと無線機は販売終了していますが、代替品があります。

次の3品は自作しました。

半波長ダイポールアンテナ

電場の振動を調べるアンテナです。豆球は6.3V0.15Aの細長い電球を使います。

ループアンテナ

磁場の振動を調べるアンテナです。豆球は夜釣り用の1.1Vのもので、わずかな電流でも十分に明るいものです。電流値は不明です。ループは一周70cmにしています。

格子

材料はすべて100円ショップで買いました。
端材 15×15×900mm  1本
20×10×900mm 1本
針金 φ0.6mm 1巻き

実験手順

[1]電場の振動面を調べる

自作ダイポールアンテナを送信用アンテナのエレメントと平行にすると、豆電球が明るく輝きます。

垂直にすると消えてしまいます。

これらのことから、電場の振動面は鉛直方向を向いている事が分かります。また、電場の振動は横波として伝わっている事も分かります。

[2]磁場の振動面を調べる。

自作ループアンテナの面を、先ほど分かった電場の振動面に平行になるように置くと、豆電球が明るく輝きます。

電場の振動面に垂直になる様に置くと、消えてしまいます。

[3]電波の波長測定

黒板に向け送信してできた定常波を自作ダイポールアンテナで調べます。腹の部分に持ってくると明るく光ります。この実験では節と節の間が約34cmでした。計算すると振動数は4.4×102MHz となり、ほぼ満足な値が出ました。

[4]電波と格子

ダイポールアンテナの前に、自作の格子を電場の振動面に垂直になるように置いても、電波は透過し電球が光ります。

今度は格子を電場の振動面と平行になるように回転させると、電波は透過できず、電球は消えてしまいます。

では、電波のエネルギーはどこへ行ったのでしょう。
一部は格子でジュール熱に変わったのでしょうが、写真の様に、格子の角度を斜めにしダイポールアンテナの位置を格子より手前のいい位置に持ってくると、電球は光ります!
これは、電波が格子に当たって反射し、手前に向かっているためと考えられます。

ここで、また格子を電場に垂直になる様に回転させると、電球は光らなくなります。このとき、電波は格子を透過しているわけです。

[5]光と格子(偏光板)

いよいよ光の実験です。光も電磁波であるなら、格子の実験も同様に可能なはずです。しかし、先ほどの格子では何の役にも立ちません。なにせ光の波長は、アマチュア無線の電波70cmに対してその百万分の1程度しかありません。あんなに広い格子ではまさにザルです。かといって間隔が百万分の1の格子を作るのは、私には到底不可能です。ここは、教材屋さんの教材を使いましょう。そう、その名は『偏光板』です。

※偏光板は、極めて間隔の狭い導線の格子と同じはたらきを持っています。鎖状炭化水素からなるプラスチックのシートを1方向に引き伸ばし分子を整列させ、ヨード溶液に浸して自由電子を与えてつくられる様です。

ご存じの様に、2枚の偏光板の軸を直交させると、光を通しません。これは、先ほどの電波と格子の実験から説明がつきます。しかし…

◆偏光板の『軸』とは…

ほとんどの教科書や参考書には、右写真(啓林館 高等学校物理Ⅰ 改訂版より)の様な図が載っており、あたかも軸は格子のことを表していると誤解しそうです。しかし、この図をよく見ると、先ほどの電波の実験と明らかに矛盾しています。先ほどは電場の振動面と格子が直角のときに透過することを確認しました。しかし、図では平行のときに透過する図が描かれています。これはいったい…。

そう、実は教科書などに書いてある『軸』とは透過容易軸と呼ばれるのもので、決して格子の方向を表しているわけではありません。偏光板内で格子と直角な方向を『軸』と呼んでいるのです。なぜ、こんな紛らわしい決め方をするのでしょうか。それは、向きが揃っていないときの偏光板の効果を、分かり易く説明できるからです。下の絵(共立出版 物理科学のコンセプト 電気・磁気と光 より)は、このことをロープのアナロジーで説明しています。電場の振動をロープの振動に例え偏光板の軸を柵に例えると、とても簡単にこの関係を理解できます。

電磁波の性質をロープの振動で説明するのはあまりにも無理がある、と個人的には思います。しかし、きちんと教えるには、電磁波が導線で吸収・再放出されることを説明しなければなりません。今回の電波と格子の実験で、このことをクリアすることができます。
ロープと柵を使っての説明はあくまでも類推であって、本来のメカニズムの説明ではありません。この実験を利用すると気持ちよく授業を進める事ができます。皆さんもいかがでしょうか。

今後の課題

教科書、参考書、受験問題(!)も全て、『軸』で統一されています。いくら本来のメカニズムを伝えたといっても、試験などで生徒が混乱してしまったら…、という不安はあります。ただ、今のところ、苦情?は来ていないので、案外生徒も一度(透過容易軸の理由も含めて)理解すれば問題ないのかもしれません。

参考文献

バークレー物理学コース『波動』(丸善書店)
物理科学のコンセプト『電気・磁気と光』(共立出版)
高等学校 物理Ⅰ 改訂版(啓林館)

[実験print]

電波偏光の実験 1- サイト用

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